「結婚や出産をきっかけに、美容の仕事を辞めるしかないのかな」
エステティシャンとして10年間、現場で働いていた頃、そんなふうに悩む同僚を何人も見送ってきました。私自身も第一子を授かったとき、技術職を続けながらママになるイメージが描けず、一度業界を離れる選択をしています。
申し遅れました。元エステティシャンで、現在はフリーランスのWebライターをしている高井美咲(38歳)です。今は美容業界の労働環境や、女性のキャリア継続をテーマに記事を書いています。自分自身が遠回りした分、後輩世代には「辞めるしかない」と思い詰めてほしくない。そんな気持ちでこの記事を書きました。
実は今、美容業界の「働き方」は静かに変わりつつあります。産休・育休、時短勤務、ブランク復帰、カムバック採用。少し前ならピンとこなかったキーワードが、現場の選択肢として現実味を帯びてきました。
この記事で取り上げるのは以下の内容です。
- 美容業界で働く女性が直面しがちな現実と最新データ
- 続けることに成功した先輩ママ3人のリアルな両立術
- 復職時に押さえておきたい5つのコツ
- 知っておきたい美容業界の復職支援制度の最新事情
「ライフイベントとキャリア、どっちかを諦めるしかない」という前提は、もう古い。具体的な事例とデータを見ながら、一緒に整理していきましょう。
目次
美容業界で働く女性が直面する「結婚・出産」の壁
美容師、エステティシャン、ネイリスト、美容部員。職種は違っても、女性が圧倒的多数を占める美容業界には、共通する課題があります。
それが「結婚・出産・育児」と「仕事」の両立の難しさです。
30歳前後で辞める人が多いという業界の傾向
私が現役だった頃、サロンには30歳を境にぐっと人数が減る不思議な層がありました。技術も指名も伸びていて、これから一番面白い時期に差し掛かる人たちが、結婚や妊娠を機に静かに業界を去っていく。
これは私の体感だけではありません。
エステティシャンの離職率は68.9%という調査結果があります(ホットペッパービューティーアカデミー「美容サロン就業実態調査」2023年)。生活関連サービス業全体で見ても、新卒入社2年目までに4割以上が離職しているのが現状です。
サロン特有の事情として、こうした要因があります。
- 営業時間が夜遅くまであり、家庭との両立が難しい
- 土日祝が稼ぎどき。子どもの行事と重なりやすい
- 立ち仕事・接客業のため、妊娠中の体力負担が大きい
- 技術職ゆえ、ブランクが「腕がなまる」恐怖につながる
ライフイベントが「離職の引き金」になりやすい構造がある。これが業界の現実です。
第1子出産で約半数が離職している
業界に限らず、日本全体でも第1子出産は女性のキャリアの分岐点です。
内閣府男女共同参画局の調査によると、第1子を出産後に就業を継続した女性の割合は53.8%。1995年時点では23.2%だったので、ここ30年で2倍以上に伸びました。
ただし雇用形態によって差は大きく、正規雇用では69.1%、パート・派遣では25.2%にとどまります。雇用が不安定なほど、出産で辞めざるを得ない傾向が透けて見えます。
本当は「続けたい」女性のほうが多い
ここで知っておきたいデータがもう一つあります。
出産を機に離職した女性のうち、「条件が合えば働き続けたかった」と答える人が約86%。つまり、辞めた人の多くは「辞めたかった」のではなく、「続けられなかった」のです。
問題は本人のやる気でも能力でもなく、続けられる仕組みがあるかどうか。ここに尽きます。
「先輩ママ」に学ぶ両立のリアル:3つのケース
理屈はわかった。じゃあ実際、両立している人たちはどう乗り越えているのか。
私が取材や知人から聞いた3つのケースを紹介します。一つの正解ではなく、こういう道もあるというサンプルとして読んでみてください。
ケース1:時短勤務でフルタイム復帰したエステティシャンAさん
Aさんは某大手脱毛サロンのエステティシャン。30歳で出産し、1年の育休を取得しました。
復帰の条件として彼女が会社に出したのは、「9時〜16時の時短勤務」「平日メインのシフト」「子どもの急病時の早退OK」の3点。
驚いたのは、サロン側もこれを受け入れたことです。Aさん曰く「人材不足で、辞められるくらいなら時短でも来てほしいというのが本音だった」とのこと。育成コストを考えれば、当然の判断ですよね。
今は週4日勤務で、フルタイム時代の7割ほどの収入を維持しています。
ケース2:店舗を変えて働き方を変えた美容師Bさん
Bさんは美容師歴12年。出産前は都心の繁忙店でアシスタント教育も担当するスタイリストでした。
復帰時、彼女が選んだのは「住宅街の小規模店への異動」です。客層がファミリー中心で、夜遅くまで開ける必要がない店舗ですね。
「指名客は減ったけど、その分、子育てしてる主婦のお客さんと話が合うようになって、別の常連さんが増えた」とBさん。働く店舗を変えることで、ライフステージに合った働き方を手に入れたケースです。
ケース3:一度退職して、また同じ会社に戻ったCさん
Cさんは美容部員として大手化粧品メーカーに勤務していた女性です。2人目の出産時に体調を崩し、続けるのが難しくなって退職しました。
ところが3年後、同じ会社の「カムバック制度」を使って契約社員として復帰。会社の文化を知っているぶん立ち上がりが早く、半年後には正社員に戻っています。
「辞める=もうあの会社には戻れない」と思い込んでいたCさんですが、人事から声をかけてもらえたことで、選択肢が一気に広がりました。
結婚・出産後も働き続けるための5つのコツ
3人のケースから見えてくる共通点と、私自身が復職時に学んだことを合わせて、両立のコツを5つに絞ってお伝えします。
1. 産休・育休制度の確認は妊娠前から
意外と知られていないのですが、産休・育休は法律で定められた権利です。美容師・エステティシャンといった専門職でも、雇用契約があれば取得できます。
ただし、サロンによっては運用が曖昧で、「実質取れない雰囲気」のところもまだあります。妊娠してから慌てて確認するのではなく、できれば入社時、または妊娠を考えるタイミングで、就業規則を一度自分の目で見ておきましょう。
確認したいのは以下の項目です。
- 産前産後休業の取得実績はあるか
- 育児休業の取得期間はどれくらいまで延長可能か
- 復職後の時短勤務制度はあるか
- 育児休業給付金の手続きはサロンが対応してくれるか
ちなみに、雇用保険に加入していれば「育児休業給付金」を受け取れます。育休開始から180日までは賃金の67%、それ以降は50%が支給されるので、家計の支えになります。
2. パートナーと家族を巻き込んだ働き方設計
復職を成功させた先輩ママたちが口を揃えて言うのが、「自分一人で抱え込まない」ことの大切さです。
土日のシフトが多い美容業界では、配偶者やご両親、ファミリーサポートなど、家族と外部リソースの両方を巻き込んだ仕組みづくりが必要になります。
私自身、復職当初は「全部自分でやらなきゃ」と思い込んで疲弊しました。実家にお願いするのも、夫にお迎えを頼むのも、最初は申し訳なさが先に立ってしまうんですよね。
でも、長く続けるためには「頼れるところは頼る」が鉄則。一人で完璧を目指した結果、心身を崩して辞めた友人を何人も見てきました。
3. 復職前に技術勘を取り戻すリハビリ期間を作る
技術職の復職で多くの人がぶつかるのが「腕がなまっているかもしれない」という不安です。
これに対しては、復帰の2〜3ヶ月前から自宅で簡単な練習を始めるのが効果的でした。マネキンを使った施術の流れの確認、最新の機器情報のキャッチアップ、業界ニュースのチェック。本格的に動く前に頭と手を慣らしておくと、初日の不安がぐっと減ります。
サロンによっては、復帰時に「お試し勤務」や「研修期間」を設けてくれるところもあります。事前に相談してみると、対応してくれる会社は意外と多いです。
4. シフトの工夫が両立のカギ
両立できているママスタッフのサロンに共通するのは、シフトの柔軟性です。
子育て中の美容従事者の働き方パターンを、現場の声をもとにまとめました。
| 働き方 | 勤務時間 | 勤務日数 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 時短フルタイム | 9時〜16時 | 週4〜5日 | 復職して間もない人 |
| パートタイム | 10時〜15時 | 週3〜4日 | 子どもが未就学児の人 |
| シフト制(変則) | 日によって変動 | 週3〜5日 | 家族のサポートが厚い人 |
| 業務委託 | 自由設定 | 自分次第 | 経験豊富で独立志向の人 |
自分のライフステージと相性の良い働き方を選べるかどうかが、サロン選びの大きな判断材料になります。
5. ブランク復帰OKのサロン・企業を選ぶ視点
すでにブランクがある方、これから出産で離れる予定の方は、復帰時にどんなサロンを選ぶかが大きな分かれ道です。
選ぶときに見たいポイントは以下の通りです。
- 産休・育休の取得実績が公開されているか
- ママスタッフが実際に在籍しているか
- 託児所併設や提携保育園があるか
- 復職者向けの研修プログラムがあるか
- 短時間勤務やパート雇用の制度があるか
求人票だけでは見えない部分も多いので、面接時に率直に質問するのが一番です。「ママスタッフはどのくらいいますか?」「育休からの復帰実績はありますか?」と聞いて、答えに澱みのない会社は信頼できます。逆に言葉を濁す会社は、入ってから苦労する可能性が高い。私自身、面接時の手応えと入社後の実態がきれいに一致した経験があります。
知っておきたい!美容業界の復職支援制度の最新事情
最後に、業界全体の動きをお伝えしておきます。ここ数年、美容業界の女性活躍支援は、想像以上に前進しています。
大手企業の支援制度を比較してみた
化粧品・美容関連の大手企業では、こんな制度が整備されています。
| 企業名 | 主な支援制度 |
|---|---|
| 資生堂 | 子3歳まで/通算5年まで育休、「チャイルドケアプラン」運用 |
| オルビス | 産休育休取得率100%、復帰時のママ座談会・商品勉強会 |
| ロレアル | 子3歳まで育休延長可、ウェルカムバック制度(退職後3年復職可) |
| エトヴォス | 産休育休取得実績100% |
| ちふれ | 育休復帰率100%(2021年度) |
参考データを見ると、いわゆるホワイト企業の制度は、もはやフルパッケージで揃っているのが当たり前になりつつあります。
カムバック採用という新しい選択肢
ここ最近、特に注目したいのが「カムバック採用」(アルムナイ採用)の広がりです。
これは、一度退職した元社員を、再び迎え入れる制度のこと。元社員は会社の文化や業務を理解しているので、即戦力として活躍しやすく、企業側にとっても採用コストを抑えられるメリットがあります。
日本経済新聞の報道によると、アルムナイ採用を導入する企業は約7割に達し、「転職者は裏切り者」という昔ながらの風潮は急速に薄まっているそうです。
美容業界でも導入が進んでいます。たとえば、たかの友梨ビューティクリニックを運営する不二ビューティは、2025年8月にカムバック採用のプラットフォームとして「タレントパレット」を導入しました。結婚・出産・育児・介護といったライフステージの変化で退職した方に、時間限定や期間限定の柔軟な働き方を提案する仕組みです。
実際の現場感が気になる方は、たかの友梨の元社員が語る社員向けカムバック制度の中身を読んでみてください。元エステティシャンの方が、現役時代の経験と照らし合わせながら、この制度の意義を語っています。会社側の発表だけでは見えない、退職経験者ならではの視点が参考になりますよ。
退職してもまた戻れる仕組みが広がっている
私が現役だった頃は、辞めたら最後、その会社とは縁が切れるのが当たり前でした。でも今は違います。
大手だけでなく、中堅サロンや個人経営の店舗でも、「いつでも戻ってきていいよ」と声をかける文化が育ってきています。
これは女性のキャリアにとって、本当に大きな変化です。一度離れることが、終わりではなくなった。育児や介護で立ち止まったあとも、また同じ場所に戻れる選択肢が用意されている。
「辞めるか、続けるか」の二択ではなく、「いったん休んで、また戻る」という第三の道が、確かに存在しているんです。
まとめ
結婚・出産後も美容の仕事を続けるための道筋を、データと実例から見てきました。
要点を振り返ります。
- 美容業界の離職率は高く、第1子出産で約半数が辞めている現実がある
- ただし「続けたかった」人は86%。続けられる仕組みがあれば離職は防げる
- 先輩ママは時短勤務・店舗変更・カムバック採用などで両立を実現している
- 産休・育休、復職支援、シフトの工夫、家族の協力が両立の柱になる
- カムバック採用のように「一度辞めても戻れる」仕組みが業界全体に広がっている
私自身、現役を退いてから5年が経ちますが、業界の変化を取材するたびに「今復職するなら、もっと選択肢があったな」と感じます。
もし今、結婚や出産を理由に「辞めるしかないのかな」と悩んでいる方がいたら、どうか一人で決めてしまわないでください。会社に相談する、店舗を変える、転職する、いったん休んで戻る、独立する。道は一つではありません。
あなたの技術と経験は、業界にとってかけがえのない財産です。次の一歩を、自分の納得できる方向に進めてほしいと願っています。





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